@J党本部

若手「どうしてこの時期にオリンピックを強行しようとするんですか?私には理解できません!」

 

重鎮「今の日本の空気を変えるには、それが一番だからだよ」

 

若手「そんな事言ったって、まだコロナが収まると決まった訳じゃないのに、どうしてそれで空気が変わると言えるんですか?」

 

重鎮「オリンピックはやる。そう決めたんだ。それ以上何も言うな」

 

若手「おかしいですよ!世論調査でもオリンピックに反対する声は上がってるんです!それを無視して強行したら、余計国民の支持を失うことにはなりませんか?」

 

重鎮「ならん」

 

若手「なぜそんな事が言えるんですか?」

 

重鎮「オリンピックは改憲を可能にするからだよ」

 

若手「なんでそこに改憲が出てくるんですか?」

 

重鎮「お前何もわかってないな。改憲は我々の権力基盤を揺るがないものにする。そうなれば国民の支持などはもはや関係ない。お前、前回の選挙は苦しんだだろう。あんな想いもう二度としなくて済むってことだ」

 

若手「し、しかし…」

 

重鎮「お前、やりたい政策があるんだろう。そのためにあちこち回って金の都合つけてるって話知ってるよ。それ、やんなよ。そのためにはな、まず俺たちの基盤がしっかりしてなければいかんのだ。改憲についてああだこうだ言う奴らがいるが、あいつらはなんにもわかっとらん。俺たちはな、俺たちにしか日本を変えることができないと思うから改憲をやるんだ。日本のためにやるんだ」

 

若手「しかし、それがどうオリンピックと関係あるんですか?」

 

重鎮「改憲っていうのはな、ただの多数決じゃないんだ。国民のほとんどがそれに賛成しないと無理なんだ。でもどうやって今言ったことを国民に伝えるんだ?テレビしかないだろう?」

 

若手「確かにそうですが…」

 

重鎮「テレビってのはな、今も昔も電通が仕切っている。うちの党が今こうしていられるのも電通のおかげだよ。その電通がな、オリンピックが中止になるとまずいって言うんだ」

 

若手「まずいとは…?」

 

重鎮「やっていけないんだよ。彼らは世界中のテレビ局と契約してるだろう?その契約がポシャると違約金だなんだでやってけなくなるっていうんだ」

 

若手「しかし、それは彼らの自業自得でしょう」

 

重鎮「普段ならそうだ。普段なら俺たちもそこまで面倒見ない。ただな、今は緊急事態なんだ。今ここで俺たちの権力基盤をきちっとしておかないと、この国は大変なことになる。そのための協力だ。いいか、勘違いするなよ。お前がもし誰かの役に立ちたい時、手足がなかったらどうする?何もできんだろう。でもその前に手術して悪いところを取っておけば、またいくらでもお役に立てる。同じだよ。このオリンピックはな、手術みたいなもんだ。言ってみればこの国の手術だよ。手足を無事使えるよう治して、すっきりして気分までよくなって、そうすればこの国もまた頑張れるって理屈はわかるだろう?少々無理してもオリンピックやろうって言った意味わかったろう?」

 

若手「…はい」

 

重鎮「わしらはあんたらの何倍も政治家をやってる。そのわしらが、あんたら若い者がもっとよく働けるよう土台を作ろうとしてるんだ。この土台ができればあとはあんたらの時代だ。なんでも好きな政策をやりなさいよ。ただ、そのためにはオリンピックが絶対必要だ。何が何でもオリンピックだけは開催しなければいかん。わかったか?わかったら、まわりにオリンピックやるって宣伝してきなさいよ。よく頑張った人間には、党から特別に報奨を出すことも考えておる」

 

若手「わかりました。私の考えが浅かったようです」

 

重鎮「いいんだよ。若いうちはそんなもんだ。今いる人間たちも、みんなそうやって今がある。まあがんばりなさいよ。あんたの政策も応援するよう仲間に言っておくから」

 

若手「ありがとうございます」

 

重鎮「いいねえ若いのは。あんたみたいのがいれば、この党もいつまでも安泰だよ。まあがんばりなさい」

 

若手「はい。それでは失礼します」

 


若手、建物の外へ出て電話をかける。

 


若手「…あ、〇〇さん?はい、全部録音できました。…はい、最高のタイミングですね。楽しみにしてます。…はい。音声ファイルはもうそちらへ送りました。これで殺されても何も思い起こすことはありません。…はい、よろしくお願いします。失礼します」

 


数日後

 


重鎮「おい、こないだのあいつちゃんとわかったのか?少し嫌な予感するんだがな」

 

秘書「あのあと、地元の集まりでオリンピックやった方がいいって話してたようです」

 

重鎮「そうか。まあ若い奴は選挙と政策でくすぐれば一発だな」

 

秘書「そうですね。彼らのような何もない人間は、選挙に落ちたら本当にただの人になってしまいますから」

 

重鎮「そう考えると俺なんかいいなあ。なんたってオヤジの代から地元とズブズブだからな」

 

秘書「先生、おじいさまの代からですよ」

 

重鎮「いけね!じいさまが聞いていたら叱られるところだったわ!」

 

二人「あーはっはっはっ!」

 

 

 

この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは 一切関係ありません。